投資者保護基金とは
- 日本投資者保護基金(以下、「当基金」といいます。)は、金融商品取引法(以下、「金商法」といいます。)の下で、非営利の会員制の法人として1998年12月1日に設立されました。
- 当基金は、証券会社が破綻やそれ以外の財政的な困難のために、分別管理の状況に問題があって、お客さまの金銭や有価証券を返還することができない場合、お客さまそれぞれに対し上限1,000万円までの補償の支払いにより、投資者保護を実行します。
- 当基金は、会員証券会社の会費や負担金により、民間機関として運営・管理されますが、金商法に基づき、内閣総理大臣及び財務大臣に認可された法人であり、金融庁と財務省の規制・監督に服します。
分別管理制度
- 証券会社は、お客さまの資産を分別管理し、確実に保全しています。
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- 証券会社は、お客さまからお預かりした金銭や株式、債券などの有価証券を、証券会社自身の資産とは厳格に分離して管理することが法律上義務付けられています。これを顧客資産の「分別管理」といいます。
- 分別管理が厳格に行われている限り、証券会社が破綻しても、基本的に、お客さまの資産に影響はなく、お客さまは破綻した証券会社にご自身の金銭や有価証券の返還を求めることができます。
- お客さまが証券会社に預けている資産は、この分別管理制度と投資者保護基金による補償制度の2つの制度によって保護されています。
当基金の目的
- 投資者の保護と証券取引に対する信頼性の維持が目的です。
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- 当基金は、会員である証券会社の経営破綻によりお客さまの資産の返還が困難であると認められる場合に、証券会社に預けた資産の返還を求める一般のお客さまに対して補償を行うこと等により投資者の保護を図り、もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的としています。
基金の権限
- 当基金の主要な権限は、二つあります。
- 第一に、証券会社が破綻やそれ以外の財政的な困難のために、分別管理の義務に違反したことによって、お客さまの金銭や有価証券を返還することができない場合、当基金は、補償が必要であることを認定し、公告することを決議したうえで、補償の支払いを行う権限を有しています。
- 第二に、当基金は、補償を行うための投資者保護資金の管理を行う権限を有しています。
- 他には、
ア)金融庁及び財務省の認可を得て行う、
イ)会員の顧客から同意を得て対応する、
ウ)会員である証券会社から予め委託を受けて対応する、
エ)破産法や預金保険法等の規定により、特定の職務に選任され又は指名されて対応する、
といった権限が金商法などに定められていますが、当基金が独自に対応できる権限とはいえません。
- 上記の二つの主要な権限以外で当基金が独自に対応できる権限として、当基金が必要であると認めるとき、会員に対し、業務又は財産の状況に関し、参考となる報告や資料の提出を求め、また、当基金の職員に監査させることができます。
補償範囲
【補償対象となるお客さま】
当基金の補償を受けることができるのは、当基金の会員証券会社のお客さまのうち、金融機関などの適格機関投資家や国、地方公共団体など、いわゆる「プロの投資家」を除いた一般のお客さまです。
補償対象となるお客さまであっても、仮名・借名により他人の名義で取引をしている方の資産については補償対象から除外されます。
破綻した証券会社の役員や親法人等も補償対象から除外されます。
【補償対象となる取引等】
補償対象となる金銭、有価証券などのお客さまの資産は、証券会社が行っている有価証券関連ビジネス又は商品デリバティブ業務関連ビジネスに関して、お客さまからお預かりしているものに限られます。
- 当基金の補償対象となる取引には、主に以下のものがあります。
- 株式の取引(海外で発行されたものを含む)
- 公社債の取引(海外で発行されたものを含む)
- 投資信託の取引(海外で発行されたものを含む)
- 株式の信用取引に係る保証金
注)補償を受けることができるのは委託保証金又は委託保証金代用有価証券
- 国内取引所の有価証券先物取引や有価証券オプション取引に係る証拠金
例)大阪取引所の日経225先物取引や日経225オプション取引などの証拠金又は証拠金代用有価証券
- 国内取引所の株価指数証拠金取引に係る証拠金
例)東京金融取引所の「くりっく株365取引」に係る証拠金又は証拠金代用有価証券
- 証券会社が取り扱っている取引のうち、当基金の補償を受けることができない取引には、主に以下のものがあります。
- 有価証券店頭デリバティブ取引(有価証券先物、オプション、CFD取引を取引所市場外であって相対で行う取引)
- 海外取引所の有価証券市場デリバティブ取引(外国の取引所で行われる有価証券先物、オプション、CFD取引)
- 取引所の通貨関連取引(東京金融取引所の「くりっく365取引」など)
- 外国為替証拠金取引(FX取引)
- 信託受益権、組合契約、匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約などに基づく権利のような第二種金融商品取引業の金融商品に該当するものの取引
- こうした取引は、金商法の規定により、また、取引を行うほとんど全てのお客さまがプロの投資家であることを理由に、当基金の補償対象とはされていません。
- 補償対象の取引であっても、破綻した証券会社が発行した株式や社債は補償対象から除外されます。
補償手続
- 補償手続の各段階は以下のとおりです。
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- (1) 当基金の会員証券会社は、登録が取り消されるとき、または破産手続開始の申立て等を行うとき、当基金に直ちに通知しなければなりません(以下、この通知を行った会員証券会社を、「通知会員」といいます。)。
- (2) 当基金は、通知会員が自己所有の財産から、お客さまの金銭及び有価証券を分離し、管理することによってお客さまの資産を保全しているかどうか、監査を実施して確認します。
- 裁判所が保全管理命令を発令する場合、通知会員の財産の処分が禁止され、保全管理人が選任されます。
- 当基金は、通知会員に預けられているお客さまの資産の変化について、保全管理人から報告を受けます。
- (3) 当基金は、通知会員が、分別管理の義務に違反したことによって、お客さまから預けられた金銭や有価証券を返還することができない、又は返還することができない可能性が高い場合、弁済困難の認定と公告を決議します。
- お客さまは、新聞に掲載される公告、お客さまに郵送される通知、当基金のホームページに記載された補償を請求する期間、場所及び方法などに従って、支払を請求するための書類を当基金に提出します。
- (4) 当基金は、お客さまの請求書類と通知会員の記録とを照合し、当基金が支払う金額を決定し、補償の支払いを実行します。
- お客さまの金銭は、帳簿と書類に基づき計算されます。
- お客さまの有価証券の価値は、公告を行った日の市場の終値で評価されます。
- 当基金によって支払われる補償の額は、提供されたお客さまの担保と債務を控除することによって計算される額も考慮します。
- 当基金は、お客さま一人当り1,000万円を限度に、お客さまへの補償の支払いを実行し、その補償支払額に応じて、お客さまから補償の対象となった債権を取得します。
- (5) 当基金の補償の支払いの決定プロセスと並行して、破産管財人は、通知会員の清算手続を開始します。
- 1,000万円を超えて請求するお客さまは、追加の分配を受ける資格があるかもしれません。
- 当基金は、破産管財人とお客さまの資産の状況を確認するとともに、1,000万円を超えて請求するお客さまの一覧表を作成し、裁判所に提出します。
補償の支払いを行うための資金(「投資者保護資金」)
【投資者保護資金の残高】
投資者保護資金の残高は、2023会計年度末に、およそ584億円に達しました。
【投資者保護資金の運用】
投資者保護資金を、総理大臣及び財務大臣によって指定された国債、銀行預金等以外、他の方法によって運用することは認められていません。
【投資者保護資金のための負担金徴収】
補償の支払いを行うために必要とされる十分な金額は、業務規程の定めにより500億円です。
投資者保護資金が500億円未満の場合、会員証券会社は1年につき50億円の算定基礎額に基づいて計算される負担金を当基金に支払う必要があります。
現在、投資者保護資金は、500億円以上であるため、当基金は、2003年度以降、負担金を徴収しておりません。
負担金を徴収する場合、負担金の額は、固定額と変動額で構成されます。
算定基礎額は年50億円と、業務規程に定められています。
各会員の負担額は、次に掲げる額(A)(B)(C)の合計額となります。
- 算定基礎額の20%に相当する額を会員数で除して得た額(A)
- 算定基礎額の40%に相当する額に、各会員の営業収益の額を、全ての会員の営業収益額の合計額で除して得た比率を乗じて得た額(B)
- 算定基礎額の40%に相当する額に、各会員の補償対象顧客資産の額を、全ての会員の補償対象顧客資産の額の合計額で除して得た比率を乗じて得た額(C)
沿革
1968年 | 任意の組合として寄託証券補償基金が設立されました。 |
1969年 | 財団法人寄託証券補償基金が設立されました。 |
1998年 | 改正証券取引法の下で、財団法人寄託証券補償基金は、日本投資者保護基金へ改組されました。同時に、外国証券会社を主な会員とする証券投資者保護基金が設立されました。 |
2002年 | 日本投資者保護基金と証券投資者保護基金の二つの基金が統合され、現在の日本投資者保護基金となりました。 |
2007年 | 政府の政策は、金融商品・サービス多様化、公正性、透明性に重点を置きました。これらの政策に対応して、証券取引法が金融商品取引法に改正され、施行されました。 |
2010年 | 各国の投資者保護基金が意見交換するための非公式な国際フォーラムが発足し、以後、ほぼ毎年フォーラムが開催されています。 |
2018年・2019年 | 米国やカナダの投資者保護基金制度や運営について意見交換を促進するため、米国のSIPC(2018年)及びカナダのCIPF(2019年)とMOUを締結しました。 |
当基金が設立された背景
1990年代前半に、いわゆる「バブル経済」がはじけ、その後、日本の経済社会は、不良債権問題、企業の経営破綻、長期不況という深刻な状況が続きました。
1998年までの間に、日本の主要な証券会社2社と、大規模金融機関3行が破綻する中、政府は、銀行、保険、証券の非効率性をもたらしてきた規制を緩和し、フリー・フェア・グローバルをめざした改革、いわゆる「金融ビッグバン」を、1997年から2001年頃まで押し進めました。
証券の分野では、証券会社の参入を促進するため、登録制が導入され、証券会社の業務の自由化が打ち出されました。このことは、従来以上に証券会社の廃業や破綻の可能性を高めるため、顧客が被る不測の損害を防止する観点から、証券会社に顧客資産の分別管理義務を課し、証券会社の財産とお客さまからお預かりした資産との区別を徹底させることにより、証券会社が経営破綻等により業務を行わないこととなった場合に、お客さまからお預かりした資産の確実かつ円滑な返還を実現することとし、仮に、このような分別管理義務に違反していたような場合に、これを補完するセーフティネットとしての役割を果たすものとして、投資者保護基金が設けられました。
組織
【会員】
- 全ての証券会社は基金に加入しなければなりません。
- 基金に加入する会員(証券会社)は、金商法の下で、次のとおり定義されています。
- 基金の会員になる資格がある者は、第一種金融商品取引業者に限り、さらに、第一種金融商品取引業者は、有価証券関連業又は商品デリバティブ取引関連業務を行おうとする者に限ります。
会員一覧は以下よりご覧ください。
会員一覧
【役員】
- 基金に、役員として、理事長1人、理事2人以上及び監事1人以上を置きます。
- 役員は、総会の決議により、会員代表者及び基金の業務の適正な運営に必要な学識経験を有する者のうちから選任します。
役員一覧(2024年7月1日)
理事長 | 大久保 良夫 |
理事 | 上村 達男 (早稲田大学 名誉教授) |
理事 | 楠 雄治 (楽天証券株式会社 代表取締役社長) |
理事 | 島本 幸治 (ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 代表取締役社長) |
理事 | 新芝 宏之 (岡三証券株式会社 取締役会長) |
理事 | 岳野 万里夫 (日本証券業協会 副会長) |
理事 | 原田 喜美枝 (中央大学 商学部 教授) |
理事 | 飛彈 健一 (SMBC日興証券株式会社 代表取締役兼副社長執行役員) |
理事 | 藤沢 久美 (株式会社国際社会経済研究所 理事長) |
理事 | 水野 晋一 (野村證券株式会社 代表取締役常務) |
監事 | 荒川 真司 (公認会計士) |
監事 | 小林 正浩 (明和證券株式会社 取締役社長) |
専務理事 | 坂井 竜裕 |
(敬称略)
【総会】
- 総会は、当基金の意思を決定する最高の機関です。
- 当基金は、総会の議決を内閣総理大臣及び財務大臣に報告しなければならないことになっています。
【理事会】
- 理事会は、定款に定めがある事項及び基金の業務運営に関する重要事項について決議します。
- 理事会は、理事長及び2人以上12人以内の理事によって構成されます。
【運営審議会】
- 運営審議会は、通知会員が分別管理の義務に違反したことによって、お客さまから預けられた、お金や有価証券を返還することができない、又は返還することができない可能性が高い場合、お客さまへの支払が困難であるとの認定、及び、当基金の業務の適正な運営に関し、理事長に提案することを目的に、設置されています。
- 運営審議会は、委員8人以内で構成します。
組織図
補償実績
- 1998年12月1日の設立以降、顧客に対する補償を行った実績は、以下の2件となっています。
-
- 南証券(本社:群馬県)補償金総額約35億円※(2000年度)
(※当時は、1,000万円の上限額がありませんでした。)
- 丸大証券(本社:東京都)補償金総額約1億72百万円(2012年度)
なお、当基金の設立前の任意の機関であった「財団法人寄託証券補償基金」が顧客に対する補償を行いましたが、それらは全て終了し、その資産・負債は全て当基金に承継されています。
会員数・基金の規模
会員数(社、各年3月末時点)
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
262 | 265 | 268 | 268 | 265 |
基金の規模(百万円、各年3月末時点)
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
58,359 | 58,392 | 58,420 | 58,436 | 58,448 |
国際関係情報等
「証券会社の破綻法制及び投資者保護基金制度に関する研究会」
※公益財団法人日本証券経済研究所と共同研究
1. 検討状況
- 第1回 2014年5月21日
- 第2回 2014年7月16日
- 「アメリカの投資者保護基金制度について‐証券会社の経営破綻を巡る法制度と課題‐」
- 第3回 2014年10月22日
- 第4回 2014年12月10日
- 第5回 2015年3月4日
- 第6回 2015年4月22日
- 「EUの証券会社破綻における投資者補償(ICS)制度について」
- 「海外現地調査の『質問事項素案』の検討」
- 第7回 2015年6月24日
- 「証券会社等の経営破綻におけるカナダの投資者保護制度について」
- 「証券会社破綻時等の顧客資産の返還について(我が国における問題状況)」
- 「イギリス現地調査の『質問事項』等について」
- 第8回 2015年9月30日
- 「イギリス現地調査報告について」
- 「フランス現地調査質問項目案等について」
- 第9回 2016年2月10日
- 「フランス現地調査及び事前回答について」
- 「アメリカの投資者保護基金制度の最近の状況について」
- 第10回 2016年4月27日
- 「フランス現地調査報告」
- 「ドイツ現地調査質問項目案等について」
- 第11回 2016年7月27日
- 「ドイツ現地調査について」
- 「証券会社等とアイルランドの投資者補償制度について~EU指令との関係において~」
- 第12回 2016年11月16日
- 第13回 2017年3月22日
- 「イギリス・フランス・ドイツ現地調査のとりまとめ」
- 第14回 2017年6月28日
- 「アメリカ現地調査質問事項について」
- 「アメリカ現地調査の日程等について」
- 第15回 2017年10月18日
- 「アメリカ現地調査報告について」
- 「TLACに係る枠組みの整備について」
- 第16回 2017年11月29日
- 「アメリカの投資者保護基金制度に関する報告書」
- 「投資者保護基金制度に関する課題」
- 第17回 2018年1月31日
- 「証券会社の破綻処理及び補償等に係る法制と課題」
- 「リーマン・ショック後の証券会社破綻法制に関する国際的動向」
- 「基金の実務遂行上の疑問点及び今後検討を要すると思われる事項」
- 第18回 2018年4月11日
- 「前回(第17回)会合における報告に基づく、自由討議」
- 第19回 2018年11月2日
- 第20回 2019年5月9日
- 「カナダ投資者保護基金(CIPF)の概要及びカナダの金融制度におけるCIPFの役割について」
- 第21回 2019年8月1日
- 「投資者保護基金制度に係る海外現地調査報告」の取りまとめについて
2. 海外調査
- (1) 2015事業年度
- イギリス(2015年8月)
- フランス(2016年3月)
- (2) 2016事業年度
- (3) 2017事業年度
国際会議
国際投資者保護基金会議
- (1) 2010年6月9日
開催地 カナダ モントリオール
- (2) 2011年4月19日
開催地 南アフリカ ケープタウン
- (3) 2012年5月15日
開催地 中国 北京
- (4) 2013年9月21日
開催地 イタリア ローマ
- (5) 2014年5月15日、16日
開催地 中国 上海
- (6) 2015年6月19日
開催地 イギリス ロンドン
- (7) 2016年9月29日
開催地 リトアニア ヴィリニュス
- (8) 2017年8月30日、31日
開催地 中国 北京
- (9) 2018年5月9日
開催地 ハンガリー ブダペスト
- (10) 2019年5月15日
開催地 オーストラリア シドニー
- (11) 2023年5月26日
開催地 ハンガリー ブダペスト
- (12) 2024年5月28日
開催地 フランス ニース